画面の向こうの、

観終わったときに書くところ。ネタバレがあったりします。

「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」

なんて映画なの!
エドガー・アラン・ポーが原作とのことで
彼の小説はいくつか読んだけど合わず、
だからこの映画も期待してなかったのに!


いかにも私好みの、正常と異常がテーマ

ラムは医師でなく、本当の医師ソルトは投獄されていると明かされる
ソルトの治療は現代では(当時も?)とてもまともとは言えないもので
いまでいう人非道、虐待そのもの。加えて薬漬け。
そんな治療を受けていた患者たちは何も改善せず、
ラムが反乱を起こしてからの患者たちは、
話せるようになったり、仕事が出来るようになったり。
でもだからって、ソルト医師も
多分あれらが正しい治療だと信じて行ってたはずで
では何が、どうするのが正しいのか?

特に精神的な問題に対して、
医師免許の有無だけで「正しい治療」が決まるのだろうか

まぁ人を投獄するのはどうかと思うけど、
でも、自分や他の弱い患者たちを虐待する相手なら?
隙を見て閉じ込めてしまおうと思っても仕方が無い気がする。

ただ、逃げた人たちを殺したこと、
電気ショックを与えたこと、
これは自分の地位に目が眩んだラムの罪なのだと思う。
彼の過去は悲惨で、悲しすぎる。

まぁ、そもそも私は中盤くらい?
エドワードがラムとミッキーフィンの話を聞くまでは、
ラムが本当の医師なのじゃないか、
ソルトや地下に閉じ込められてる人たちの方が嘘なのでは?
とか思っていたけど、それはふつうに違った…笑


そしてエドワード。彼の罪は
イライザを優先しすぎて目が眩み、
お酒に毒を混ぜて無実の人たちまでも殺そうとしたこと。
未遂で終わってよかったけど、
みんな死んでたかと思うとさすがに怖すぎる。

とにかくラムとソルトの関係、異常と正常、治療と虐待、
ということばかりを考えさせられていたせいで
「え?ちょっと美人だからって簡単に患者に惚れすぎじゃない?
 そんなことじゃこれから医師なんてやっていけないわ」
と最序盤、イライザ初登場の時に思ったことをすっかり忘れていた…
すっかり騙されてしまった。

思い返せば、病院に着く前、馬車で拾ってもらうシーンで
「彼は正常」という認識を植え付けられているんだわ。


その後は、まとも(そう)な病院に戻り、
イライザとエドワードは幸せそうで、
一途萌え、な私の好みすぎるエンド!
このエンドの衝撃、幸せの香りのおかげで、
序盤の(私の勝手な)葛藤が吹き飛んですっきり。笑


お話はこれ以上無いほど、という感じだけど
映像も全くなんという好ましさ。
そもそも、1800年代後半の精神病棟、
それも貴族や富裕層ばかりが入るという設定よ…。
やたらとお城感が強い病棟に(海外はあんなのなの?)
病院の患者たちとは思えないきれいな衣装たち!
暗く、暗すぎないゴシックな映像はいつも恍惚。

映像や衣装に負けない美しい俳優陣も素敵。

イライザ役のケイト・ベッキンセールという名前は
役者に疎すぎる私でも聞いたことがあるわ
(多分ヴァンヘルシングアンダーワールドもみてるせい)
ラム役の人も見たことある気がする…?と思ってたら
多分「砂と霧の家」かしら…思い出すと悲しくなるわ。笑

面白すぎて、是非原作も読みたいけど、
この映画が良すぎるから、がっかりするんだろうなぁ。笑

妙に評価が低くない?と思ったら、wiki曰く、

Rotten Tomatoesによる批評家の見解の要約は
「熱烈なホラー映画ファンにとっては十二分以上に面白い作品である。
しかし、そうではない人たちにとっては実につまらない作品であろう」

とのこと……なんか腑に落ちる気がしないでもないような…

それにしても日本語訳がダサすぎる!
書きたくないけど、同名映画があるっぽいので仕方なく…
原題は「Stonehearst Asylum」病院の名前ね。
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4.8/5.0
監督:ブラッド・アンダーソン
2014年のアメリカ映画

「グッド・ネイバー」

あぁ…フィクションでよかった……。

下らないイタズラの計画、その実行で進む映画だけど
早々に法廷のシーンを入れることで、
少年たちの計画が明るみになったこと、
そして何か重大なことが起こったことがわかって
そして少しずつ明かされていく、事件と老人のこと。
ぐっと引き込まれ、続きが気になるようなつくり。

だから、誰かが誰かを殺してしまうんだろうな
と思っていたし、
かなり後半の法廷シーンまでイーサンを出さないのも
このミスリードを狙ってる巧い手なのだと思う

老人が本当に頭がオカシイとは流石に思えず、
警官が地下室に入ったシーンで病気で亡くした?と気付き
その後ベルが登場した時点で、確信に変わったけど

そしたら、ああ、まさか、ああ…。

老人の感情すべては明かされないけど、
奥さんが迎えに来たと思ったのか、
自分のあたまがおかしくなったと思ったのか、
どちらにしても、切なすぎる。

こんなにフィクションでよかったと思えるのも久々な気がする

法廷ですべてを知った少年たちは、
一体何を思ったのか。
最悪自殺、少なくとも何かの依存症とか、そういう、
そういう未来であってほしい、と思ってしまう…
だって、彼らは根からの悪人じゃないもの。

観客は本当の意味では興味の無い、少年たちの日常を
だらだらと入れるんじゃなくてほんの少し入れることで
この「彼らが根からの悪人じゃない」という感覚も持たせてる
少年だ、というリアリティ

またこれ、監督が全然無名?なのがすごい。
わかりやすく、ブレすぎず、かといってきれいすぎず、
小物類がほんの少し光る映像(実際にじゃなくて)
お部屋のこだわり映画ポスターが好き…笑

そもそも「グッド・ネイバー」ってタイトルが色々皮肉すぎる

「偏屈な老人」だと思っていても、
どんな人生があってそうなったのかは
話せてみたとしても、なおわからないかもしれない

あぁ、なんだか、本当に悲しい…
せめて、天国で奥さんと会えて欲しい。

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3.9/5.0
監督:カスラ・ファラハニ
2016年のアメリカ映画

「クロノス」

ギレルモ・デル・トロの初長編監督作品

長めの語りで丁寧に語られる「クロノス」
錬金術師が残した永遠の命を与えるモノ、
というあの語りだけでなんてドキドキすること!

そしてそれを偶然手にしてしまう善良人、
それを追う金持ち老人と暴力要員の部下
という、良い意味で古典的な
わかりやすいストーリー

ゴシック絵本、という感じのいかにもなデル・トロ節。

冒頭も冒頭、始まって何秒かのあたり、
パンズラビリンスの妖精に変わる虫が出てきてる!
この頃からあれがデル・トロの世界に居たのね。

意図せずとはいえクロノスを使ってしまったせいで
じわりじわりと吸血鬼化していく様が恐ろしい
意図してないからこそ、知らないからこそ恐ろしいのかも。
脱皮のような皮を剥がした姿は、
すこしはみられるような姿なのか、
それとももっと恐ろしいモノに変わっていくのか…。

おじさん対おじさん、なシンプル構図だけど
それをぐっと引き締め、よりゴシックにしているのが孫娘
おかっぱぱっつん、妖艶、にっこり笑顔、そして喋らず、賢い
きっとどこかで「一言目」を使うんだろうな、
と思っていたけど、思っていても、やっぱり、効く…笑

最初から望んでなんかなかった、というのがあれど
「私はヘスス・グリスだ」と言いながら、
人間のままで死を迎えようとする美しさ、悲しさ。
そしてきちんと奥さんと最後の別れをする。
ひとりで死なずに。

このラストシーンに限っては、
音楽がより引き立てて本当に悲しい気持ちになったけど
全体的にちょっと音楽が五月蠅い…
無音のシーンというのが多分あんまりなくて
しかもこれシーンと合ってる?と思う曲が多かった…
曲自体がすごく悪いとかいうんじゃ多分無いんだけど。

現代人にはあまりにも話がシンプルすぎて
ちょっと助長感もあるけど
細やかな造形美、特殊メイクを使いこなすセンス
無駄の無い配役などなど、流石というしか無い。

デル・トロのゴシック以外のやつって
意外とみたことない気がする。みたいな。

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3.5/5.0
監督:ギレルモ・デル・トロ
1992年のメキシコ映画